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はじめに
2024年8月9日、クレドールより「ロコモティブ GCCR999」が1974年のブランド誕生から50周年を記念して限定発売されました!幸運にも購入することができましたのでレビューして参ります。
クレドールとは
「日本の美意識と匠の技により生み出される日本発のドレスウオッチブランド」
クレドールとは、フランス語で「黄金の頂き」を意味します。ブランドロゴは「頂き」から連想された漢字の「山」と、天に伸びる3つの「星」を融合させたクレストマークです。
2024年はブランド生誕50周年とあり、素晴らしいモデルが次々に発売されています。クレドールは叡智などかなりハイエンドな高価格帯モデルのイメージが強く、ノーマークだった時計愛好家も少なくないと思いますが、ここにきてラインナップが拡充し一気に存在感が高まっており、今後も目が離せません。
ジェラルド・ジェンタとは
ジェラルド・ジェンタ氏は、20世紀を代表する時計デザイナーとして知られ、2011年に惜しまれつつ80歳でこの世を去りましたが、「時計界のピカソ」と称されている偉人です。
アーティストの顔を持つジェンタ氏のデザインは、どれもオリジナリティにあふれ、シンプルながらも洗練されており、時代を超えて愛される魅力を持っています。現に、ジェンタ氏がデザインしたオーデマ ピゲのロイヤル オークやパテック フィリップのノーチラスなど、今なお時計愛好家の垂涎の的となっている名作が数々残ります。
クレドールがロコモティブ復活に際してご婦人のイヴリン・ジェンタ氏にインタビューしていますが、実に興味深い内容でした。
ロコモティブとは
1979年に、クレドールとジェラルドジェンタ氏のコラボレーションによって生まれたのが、オリジナルのロコモティブ。オリジナルの方はクオーツでした。
「Locomotive」という言葉には「機関車」と「牽引力となるもの」という2つの意味が込められています。
ロコモティブの名付け親はジェンタ氏です。ジェンタ氏のデザインだから当然と考えるかもしれませんが、ジェンタ氏がデザインした時計に自分で名前を付けたのは唯一、ロコモティブだけなのです(自身の名を冠したブランドの製品を除く)。
ロコモティブGCCR999の基本スペック
以下のとおりです。
- 製品名: GCCR999
- 価格(税込): 1,760,000円
- 限定数量: 300本(うち国内200本)
- 駆動方式: メカニカル 自動巻(手巻つき)
- キャリバーNo: CR01
- ケース材質: ブライトチタン
- バンド材質: ブライトチタン 両プッシュ三つ折れ方式中留
ブライトチタン 一般の純チタン材よりも色が明るく、硬度が高いチタン系材料です。また、耐メタルアレルギーの素材でもある。
- ガラス材質: サファイアガラス(内面無反射コーティング)
- ダイヤル: ダイレクトカットパターンダイヤル(ブラック)
- 精度: 日差+15秒~-10秒
- サイズ: 縦 41.7 mm 横 38.8 mm 厚さ 8.9 mm
- その他の仕様: 最大巻上持続時間約45時間、石数26石、防水 日常生活用強化防水(10気圧)、耐磁 あり、裏蓋に限定シリアルナンバー入り
- 重さ: 78.0g
レビュー
第一印象
新作発表時の第一印象は強烈な個性!でした。
ロコモティブならではの六角形×センターラグ方式の外装です。
腕時計といえば、丸型、角形。あるいはノーチラスやロイヤルオークに代表されるラグジュアリースポーツウォッチは八角形。六角形を模したケースはあまり見かけません。特にロコモティブは丸みを帯びた六角形風なので尚更ですね。
ただ、六角形は蜂の巣、雪の結晶、亀の甲羅、昆虫の複眼、ピーマンのヘタの部分など自然に溢れている形ということもあってか、見慣れれば愛着が湧いてきますね。
六角形を探せ! | 経済産業省 METI Journal ONLINE
ベゼルだけでなくブレスレットの中駒も六角形。
デザイン
形・仕上げ
ジェンタ氏のオリジナルのスケッチと見比べてみると、ブレスレットのテーパードが若干緩やかであること(したがってブレスレット幅が太く見えること)を除くと、忠実に再現されているように見えます。
ベゼルの六本のネジが、六角形であることを強調しているように見えます。ネジ自体も六角形のデザインという徹底ぶり。なおこのネジは飾りではなく、機能ネジということです。
リュウズが4時位置にある時計は私にとって初めてですが、六角形デザインにはこの位置がベストですね。
ベゼルのフラットな面はサテン仕上げ、周囲はポリッシュ。ポリッシュはピカピカです!素晴らしい輝きです。
通常のチタンはSSと比べてやや黒みがかった素材ですが、ロコモティブに使われているブライトチタンはSSとほとんど変わらない明るさ。加工が難しいのに、この鏡面仕上げは見事です。
ダイヤル
グレーがかった黒色のダイヤルです。
ダークグレーと言った方が実物の印象に近いです。
見どころはダイヤルに施された彫刻。
一本ずつ機械で彫刻した線が、約1600本!
彫られた部分に光が当たると、虹色のように様々な色合いで反射して見えます。
惚れ惚れする、豊かな表情。
ロコモティブ(機関車)ということで「機関車から吹き出す蒸気」がイメージされているそうです。
文字盤の表記はCREDORとAUTOMATICのみ。シンプルで良いです。
装着感
見た目は重厚感がありますが、チタン製で、フルコマで僅か78gですから軽いです。着けていないような気がするくらいです。
ブレスレットは手首を優しく包んでくれる感じがします。
ラグが実質ない分、全長=ケース径ということで、手首への収まりは言わずもがな。
重量、ブレスレット、サイズ、すべてを総合して、装着感は100点。私がこれまで着けてきた数十の時計の中で、このロコモティブがナンバーワンです。
数日着けてみて
数日着用する中で、ロコモティブデザインにおけるジェンタ氏の狙いは何だったのかと考えてみました。
探究の手がかりはケース・ラグ・ブレスレットの関係にありそうです。
そもそも腕時計ケースとストラップ/ブレスレットの関係は。どんな型があるか以下のように整理してみます。
- 「ケース」に「ラグ」を「外付け」して、そこに「ストラップ/ブレスレット」を繋げる型
- 「ケース」と「ラグ(horn)」を「一体化」させて、ケースと一体化したラグに「ストラップ/ブレスレット」を繋げる型
- 「ラグ」を極力廃し、「ケース」と「ブレスレット」を一体化させてみせる型
「1」は懐中時計にストラップを取り付ける元祖のアイデアで、初期の腕時計はここから始まっています。「2」はストラップとケース本体の一体性を向上させる工夫で「1」が進化したものと考えられます。
私は「1」と「2」は基本的に、懐中時計時代からの時計の実用性追求の過程で生まれた型と理解します。
他方、私は「3」は全く違う発想からきていると考えます。それがロイヤルオークから始まる流れで1970年代初め、オーデマピゲからスポーティーでエレガントなSS時計のデザインを依頼されたジェンタ氏のアイデアに由来するものです。ジェンタ氏はそもそもジュエリーデザイナーの出身であり、根本的な発想として腕時計をジュエリーの一つと位置付けていたはず。
「3」で例を挙げれば、当然ロイヤルオークとノーチラスということになります。「ケースとラグの一体化」が特徴です。
ロコモティブは、もはやラグというものが存在しないと言って差し支えないでしょう。ケースに直接ブレスレットが接続されたように見えますので、「3」の究極の型なのかもしれません。
復活を果たしたロコモティブを腕に乗せてしばらく過ごして、そんなことを考えていました。
実物を腕に乗せてみて、これがジュエリー的な思想の流れを汲む、エレガントなスタイルだとわかりました。時計単体で見るよりも、身につけたときに醸し出すエレガントな、そしてスポーティ・アクティブな雰囲気が抜群に良い。
おわりに
ジェンタ氏が直接語ったことはほとんど残されていないそうですが、クロノスさんがジェンタ氏の生前にまとまったインタビューしたという貴重な資料があります。その記事は本当に貴重で素晴らしい情報が満載です。そのクロノスさんの記事からいくつか引用させていただきたいと思います。
引用元:ジェラルド・ジェンタの全仕事 | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]
ジェンタ自身が発行した公式の〝小作品集〟には、ロイヤル オーク、ノーチラスに続いて、ロコモティブが並べられている。
商業的に大成功を収めた前二者に次いで、ロコモティブが列記されているという事実から、ロコモティブがジェンタ氏にとってどういう存在だったかを推して知るべしですね。
・・・端的に言うと、彼は装身具であるジュエリーの延長線上に、時計のデザインを置いた。つまりはジェンタが言う「ソフトでエルゴノミック、袖口に引っかからないデザイン」である。・・・「確かにラグを延ばせばフィット感は上がる。フランク・ミュラーが成功した理由はまさにそれだ。しかし時計が厚く、野暮ったく見えるね。それにコストがかかる」。
ということです。
また、ホディンキーのMark Kauzlarich氏が以下の点を指摘していますが、これは非常に鋭く的確です。
ロコモティブは、現代の時計デザインにおける一種のミッシングリンクである。・・・私が初めてオリジナルのロコモティブを見たとき、それは直ちに、以前のほかのブランドのためにデザインしたものと、のちに自分の名前を文字盤に掲げて行うデザインの橋渡しとして感じられた。
引用元:1979年に登場したロコモティブが復活。故ジェラルド・ジェンタとの深いかかわりとは
ジェンタ氏のデザイン哲学やそれを解釈しようとする人々の努力に思いを馳せつつ、名作を45年ぶりに復活させてくれたクレドール、そして難しい予約を通してくださった販売店さまに感謝です。
【新作のクレドール ロコモティブに関して参考するべき記事】