1.はじめに
機械式は一生モノだし、高価な物は何本も買えないから、絶対に後悔したくない。ネットや雑誌で調べて考え続けた。YouTubeで腕時計の動画を眺める日々。カッコいいと思うモデルはいくつかある。
でも、決まらない。
今回は【直感で腕時計を買うな!一生モノには「選んだ理由」が必要】と題して、迷えるビギナー向けに時計選びの視点を提供したい。
2.「テーマ・コンセプト」という概念
クオーツショック後、機械式腕時計復興のキーワードとなったのは時計作りの「歴史」と「伝統」だった。
現代のウオッチメイキングでは更に一歩進んで「テーマ・コンセプト」という概念が重要視されている(そして、それは正しい)。
ブランド側で「こんな世界観」「こんなシーン」などとユーザーの心を掴むテーマ・コンセプトを定める。そして、そのテーマ・コンセプト沿った時計を作り込む。単に口で言うだけでは人には響かないので、ウェブサイトやブティックの作込み、ブランドとマッチするアンバサダーの起用、イベントの開催など様々な取組みを実行して説得力を高めていく。
たとえばロレックス。実用的で高品質な時計を製造する一方、「テーマ・コンセプト」への取組みが非常に優れているブランドでもある。
たとえば、
- 自動車レース=デイトナ
- 冒険=エクスプローラー(陸・山など)、エクスプローラーⅡ(洞窟)
- 科学=ミルガウス
- 海=サブマリーナー、ディープシー(深海)、ヨットマスター(洋上)
- 空(世界)=GMTマスターⅡ、スカイドゥエラー
- プレジデント=デイデイト
といった具合に明快なコンセプトが付与されている。
さらに気になる人は「ロレックスの世界」(ロレックス公式HPより)をのぞいてみよう。特に「ひとつひとつのロレックスにはストーリーがある - ロレックス ラグジュアリー ウォッチ」は著名人と時計との素敵な思い出話も含めて非常に読みごたえがある。
最高品質の実用時計を製造する能力と、明快なテーマ・コンセプトを伴ったマーケティング技術の両輪が強いロレックス。当然人気が出るはずだ。
3.時計選びは伴侶選びと同じ
日本では夫婦の3分の1が離婚しているが、決まって「価値観の相違」「性格の不一致」が原因とされている。
つまり価値観や性格が合わないモノ同士は長く続かない。
機械式腕時計は、メンテナンスをしっかりしてあげることで、自分が生きている間は動き続ける、まさに一生モノ。
その意味で、機械式腕時計は人生の伴侶と本質的に同じ。
機械式腕時計を擬人的に捉えれば、そのテーマ・コンセプトは、いわば時計のパーソナリティと言える。ウオッチナリティー - しろくま腕時計紹介店参照。
したがって、一生モノとしての機械式腕時計を購入する行為は「パーソナリティとウオッチナリティの結婚」と言っても、決して過言ではない(一夫多妻制だが)。
まずは自身の直感的判断を疑ってみる。現時点で良いと思っても、数日後には気持ちが冷めているかもしれない。
わざわざ機械式腕時計を買おうなんて言う時点で、モノへのこだわりが強い人だろうから、買う理由は徹底的に追究しよう。
4.それでも選べないのは・・・
「それでも選べない」と言う人は、時計ではなく、自分自身に問題があると思われる。
自分の世界観、思想、哲学、、そこまで大そうなものでなくとも、何に興味関心があるとか、どんなことに心がときめいたり、感動したりするのか、何が自分の原動力になるのか、といった自分自身のことが分かっていれば、それにマッチするものを探せばよいのである。
たとえば、
「俺は港町生まれて、海で育った。海はいつでも俺を包み込んでくれた。俺もそんな人になりたい」みたいな人がいたとすれば、海や港をコンセプトにした時計を選ぶことで、時計と自分の精神的な結びつきが得られ、時計に愛着がわき、長く愛用できる可能性が高い。
「いつか地球を飛び回るようなビッグな人間になるのが夢だ」なら、世界とか空をコンセプトにしたもので、行動への勇気と希望が湧いてくるかもしれない。
「人生は競争だ。常にアクセル全開で突き進め」がモットーであれば、カーレースをコンセプトにした時計で、仕事のモチベーションがアガるかもしれない。
「常に優雅にありたい。」なら、クラシカルなコンセプトのドレスウオッチがしっくりくるだろう。
いずれにせよ、まずは自分の精神を豊かにする要素は何なのか知ることが必要だ。
5.「テーマ」の分類
筆者はテーマ・コンセプトなどの無形概念と機械式腕時計選びの関係について非常に興味がある。ニッチなものも含めれば無数に存在する。更に論究を重ねていきたいと思う。
上の図は重要と思えるテーマを整理したものだ。
なお、「テーマ」が最上位の抽象概念、当該テーマの下でさらに概念を具体化したものが「コンセプト」だと整理しておきたい(テーマは「陸」、コンセプトは「険しい山の冒険」といった具合)。
【エレガンス】
社会的・精神的存在としての人がもつ美的感性を具現化した上品で洗練されたもの。
カラトラバは、その純粋な造形美により、ラウンド型腕時計の古典として、またパテック フィリップのスタイルを象徴する最も美しいモデルとして世界中に知られています。究極のエレガンスを誇るカラトラバは、時を超越した完璧さと洗練された気品により、世代を超えて愛されてきました。
【陸・海・空のテーマ】
軍隊の分類ではないが、いずれも地球を構成する大きな要素として人の生活と深く関わり、常に人のインスピレーションの源泉となってきた存在。時計のコンセプトにおいても非常に重要な意味を持つ。
「陸」
山、森、砂漠などの自然的なものはもちろん、道、建造物などの人工的なものも含めて、陸に存在するものをテーマにしたもの。陸上で生活する人間にとってもっとも深いかかわりがあるテーマ。
エクスプローラーは世界最高峰の頂で生まれ、伝説的な登山家たちとの協力のもとで開発されました。ヒマラヤ山脈、特にその最高峰であるエベレストが、エクスプローラーを実際の条件下で試す実験室の役割を果たしました。 以来、エクスプローラーは探検家のニーズを満たすために常に進化を続け、その度に堅牢性と視認性が向上しました。そして、時間の管理が生死に関わるような極限の環境にも対応できるようになりました。
The New Rolex Explorer I and Explorer II - Mastering the extremes
「海」
まさに海をテーマにしたもの。地球全体の約7割を占める存在で、身近な自然の一つ。海について考えたり、海から刺激を受けたりしたことは誰しもあるはず。
未だにその1割程度しか正確な調査がされていないと言う未知の領域でもあり、人を惹き付けてやまない存在。
世界初のモダンなダイビングウォッチとしてその地位を確立し、それ以来このジャンルを定義した伝説的なフィフティファゾムスの誕生以来、私たちは世界の海とその保護に専念するコミュニティとの密接なつながりを確立してきました。情熱的なダイバー、一流の科学者、水中探検家、環境保護論者、写真家と緊密に協力して、私たちの使命は世界最高のダイビング時計の作成をはるかに超えて成長しました。
「空」
まさに空、自分から見える空は遠い国とも繋がっていると考えれば世界という概念も想起できる。また、宇宙も含まれる。
空をみて何か考えたり、あるいは上空・宇宙から見える地球・地上を見て感動した経験は誰しもあるはず。
オメガ 「スピードマスター」は、半世紀以上の間、宇宙飛行士や宇宙機関に選ばれ続けているモデルです。実際にスピードマスターは、宇宙を舞台にした人類の大きな冒険に何度も立ち合っており、1969年7月に月で着用された最初の時計となって以来、世界で最も有名なクロノグラフのひとつとなっています。
6.まとめ
まとめると、①まずは自分自身の心を豊かにしてくれるものが何であるかを知ること、②それと結び付く「テーマ」で時計を探してみること、③心に響く「コンセプト」の時計を探してみること。それで気に入ったものがあれば是非手に取ってみよう。少しでも時計選びが楽しくなれば幸いだ。