2020年初春、パテックフィリップのカラトラバ(5196)の実物が見たくて百貨店に行ったが「在庫は一本もない」と。ノーチラスやアクアノートが枯渇しているのは承知していたがカラトラバまで置いてないとは。当時オーダーを入れていた方は彼是2年くらい待っているとのことだ。ご承知のとおり、パテックフィリップという時計ブランドは非常に手間を掛けてつくっているため、元来全ての時計が少量生産である上に、新型コロナウイルスの影響で製造に支障が出ていることも重なり、供給が追い付いておらず、納期の見通しは全く分からないとのことだった。
世界最高峰の時計ブランドであるパテックフィリップが、自らのスタイルを象徴する「最も美しいモデル」としてつくっているのがカラトラバ。カラトラバ5196は初代96(1932年)を想起させる実に「カラトラバらしい」デザインのドレスウオッチである。カラトラバ5196が2004年に発売されてから15年以上も経つ。パテックの中で2021年現在まで不動のレギュラーとして定着しているカラトラバ5196はまさに「パテックの顔」そのものだ。カラトラバに関する専門的歴史的な解説はパテック フィリップ/カラトラバ | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]をご覧いただければ分かるだろう。要するにカラトラバとは「ラウンド型腕時計の始祖」であり、時計史に永久に遺るマスターピースであるということだ。
そんなカラトラバ5196だが、前記供給状況を踏まえると、気長に待っている間にディスコンになってしまいはしないか。このまま一生実物をお目に掛かれないかもしれない。そこで、どうしても実物(5196J)が見たいと店に頼み込んだ結果、オーダーを入れている方の許可を条件に納品前に見せてもらえることになった。なお、カラトラバ5196のゴールドラインにはイエローゴールド(5196J)・レッドゴールド(5196R)・ホワイトゴールド(5196G)の三種類があるが、筆者は端的に金=イエローゴールドというイメージから5196Jを望んでいた。
秋が深まった頃パテックから連絡が入った。そういえばそんな話があったなと思い出しながら急いで行った。別室に案内され、許しを得て写真を一枚撮らせてもらった。
これがカラトラバ5196Jとの念願の初顔合わせだ。三針とバーインデックスで基本構成された文字盤とラウンドケースの外観は「ふつうの時計」のようだった。しばらく眺めていているとこれは「ふつうの時計」の顔をしているが今まで見てきた時計とは全く次元の異なる途轍もない 何かであるように感じた。納品前の傷防止シールが付いた状態だったが、それでも隠しきれない何かを確実に漂わせており、それはジワジワと自分の中に入り込んで来て強烈な印象を残した。抽象的過ぎて何を言っているのか分からないと思うが、実際、筆者も何を言っているのか分からない。言葉を失うとは、そういうことだ。生きてきている内にそれほどの逸品に出会えて幸運だった。とにかくまあ、そういうことで初顔合わせが終わった。
筆者が初春に実物拝見の申入れをした後に価格改定があり税込価格が40万円ほど上がってしまっていた。それでも数人のオーダーが入っているらしい。しかし数日内に正式オーダーを入れてくれるなら初春に興味を持ってくれていた筆者をウェイティングリストのトップに入れてくれるという打診を受けた。数日検討させて欲しいと持ち帰ったものの初顔合わせを経て心は既に決まっていた。今後これ以上の時計に出会うことはないと確信したからだ(※まだまだ色々買いますが)。翌日には正式オーダーを入れた。入荷時期は予想できず気長に待つ必要がある、と。もう後戻りはできない焦りと嬉しさが半々。一層仕事に邁進したのは言うまでもない。
年が明け、最初店に行った日からちょうど1年ほど経った頃、パテックから連絡が入った。来週くらいには商品が入ってきそうです、と。想定よりかなり早い入荷で心が躍る。カード会社に連絡を入れて利用限度額を増額。また、日常生活防水しかないカラトラバ5196を守るため、湿気が多い自室に除湿器を設置。受入れ準備は万端。
パテックでは購入にあたって前金として代金全額を預け、その後、保証書の作成が行われ、保証書が完成次第オーナーへの納品・預け金から代金への充当決済という運びとなる。前金の入金も無事に終わった。この時、納品予定の時計を少し見ることができた。そして入金日翌週の納品日が決まった。納品前日はとても機嫌が良かったようだ。
納品前夜はなかなか寝付けず、朝は無駄に早く目が覚めた。もう少し寝てから起きようと目を閉じたら予定時刻にアラームが鳴らず、準備を急いだものの納品予定時刻に10分遅刻してしまった。来店前に納品御礼の手土産を買って行く計画がパーだ(後日改めて挨拶にいこう)。
遂に目の前に「私の」カラトラバ5196Jが現れた。納品前の簡易箱・ナイロン袋からそれが出てくる光景は素晴らしいものだった。傷防止シールが丁寧に剥がされたその時、それは神々しい輝きを放った。何だこれは。「あーきれいだな」というものではない。「異常に美しい」という表現がしっくり来る。店員さんがゼンマイを巻いて、巻き始めと終わりのリューズの感触の違いを教えてくれた。手巻き時計は巻きすぎるとゼンマイが切れてしまうから要注意なのである。付属品の説明も丁寧にしてくれた。パテックの店員さんはいつでも素晴らしい対応をしてくれて感謝だ。こちらも店に入ると背筋が自然と伸びる。
その日はそのまま職場に行き、ひと段落した後、いよいよ開封となった。
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じゃん。
この日何度も「すばらしい」という言葉を口にした。素晴らしいという言葉をこんなに発した日は過去なかっただろう。
アリゲーター革ストラップは、最初ガチガチして固く装着に手こずった。しかし、この表面を覆う凄まじい艶。そしてストラップからも漂う決して普通ではないオーラ。パテックは、時計本体だけではなくストラップに使用されている革や仕立ても超一級品であることを認識した。
恒例の「開封動画」をYouTubeにアップしたので興味があれば視聴いただきたい。
Patek Philippe CALATRAVA 5196J Review パテック フィリップ カラトラバ 5196J 開封動画
ただただ、時計を触って見ているだけで、BGMもなく、解説の言葉も一言も発していないのが筆者のレビュー動画の特徴だ。その代わり時計を触ったときの音がリアルに聴けるだろう。素晴らしい時計をレビューするのに言葉は要らない。
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屋外で撮影した写真。なんと美しいゴールド、、、
お気に入りのマッカラン12年を背景に一枚。
さて、さいごにカラトラバ5196の概要やスペックを公式HPから引用しておこう。
「カラトラバは、その純粋な造形美により、ラウンド型腕時計の古典として、またパテック フィリップのスタイルを象徴する最も美しいモデルとして世界中に知られています。究極のエレガンスを誇るカラトラバは、時を超越した完璧さと洗練された気品により、世代を超えて愛されてきました。」
ムーブメント:手巻ムーブメント。 キャリバー 215 PS。
文字盤:オパーリン文字盤、ゴールド植字インデックス。
ケース:イエローゴールド仕様。 ソリッド・ケースバック。 3気圧防水。
ケース径:37 mm。 厚さ:7.68 mm。
バンド:ブリリアント・チョコレートブラウン・アリゲーター。 ピンバックル。
以上、下記パテックフィリップ公式HPより。
「上がり時計」という概念がある。いろいろと時計を集めてきた人が人生最後の時計として何を選ぶかという時に使われるものだ。このカラトラバは上がり時計の代表例として挙げられることが少なくない。最後に行きつくのはここだろうと。筆者自身はまだ「上がる」つもりは毛頭ないが、この時計を選んだ理由はやはり、爺さんになっても着けられる時計だからだ。カラトラバ5196は直径37mmと最近の時計を基準に見れば小さい部類だが、実際着用してみると完璧にフィットする。爺さんが大ぶりな時計を重たそうに着けているのは格好いいとは思わない。その点、爺さんが若かりし頃に無理をして買って、大事に手入れしてきた年季の入ったカラトラバ5196を着けていたら、それほど格好いいことはない。流行りものとは一線を画すこの「究極の三針ドレスウオッチ」は、いつの時代でも色褪せることはなく、その価値を失うことはない。事実カラトラバref96は今の時代の目で見ても完璧な時計だ。「自分が正しいと思う価値を実現すること。その結果を通して世の人の役に立つこと」を哲学として仕事をしている筆者だが、カラトラバ5196は筆者の姿勢にいつでも寄り添ってくれる永遠のパートナーになってくれると確信している。