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【Cartier】サントスの「真髄」に迫る/SANTOS DE CARTIER試着レビューと共に

今回は腕時計史の重要なタイムピースである「サントス」の真髄に迫りたいとおもう。

相反する二面性をもつサントスの魅力を徹底検証したい。

「サントス」とは?

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(LMサイズ)

時計好きなら誰しもご承知のサントス

1904年に誕生した世界初の(本格)腕時計とされており、ゆえに時計史における極めて重要なタイムピースの一つであると認識されている。

サントスのイロハについては、いつくものウェブサイトが解説しているが、クロノス日本版 2015年1月号「カルティエ/サントス」(広田雅将執筆)「カルティエ サントス ドゥ カルティエを1週間レビュー(動画解説付き)」(STEPHEN PULVIRENT執筆)を読んでおけば十分すぎる知識が得られる。

 

サントスの相反する「二面性」

過去からのサントスシリーズを一瞥すると、女心と秋の空ではないが、ドレス的だったり、はたまたスポーツ的だったりすることに気付くだろう。

現行ラインナップを見ても、サントス デュモンサントス ドゥ カルティエは似て非なるものに見える。その両者が「サントス」と一括されていることに違和感がある人もいるだろう。

では、サントスは一貫性がないシリーズなのだろうか。

初代サントスは、アルベルト・サントス=デュモンのオーダーに基づき、ルイ・カルティエ監修のもと作られた腕時計である。その後のモデルチェンジも、当然ながら、サントス=デュモンの個性を推し量って行われてきたに違いない。

このように考えると、サントスという時計の真髄に迫るには、サントス=デュモンという男を解釈しておかなければならない。

彼は、飛行機がない時代に自作の乗り物で空を飛び回るような活動的な男であった。そして大富豪でもあった。パリの高級レストランで優雅なディナーを嗜むような紳士でもあった。はたまた社交界のカリスマファッションリーダーでもあった、、、飛行中にコーヒーブレイクのために緊急着陸をしたという伝承は、真偽のほどはさておき、彼の個性を推し量るのに十分なエピソードであろう。

そんな彼のために、彼のライフスタイルにフィットするように、名門カルティエによって仕立て上げられたのが「サントス」だ。それは誕生した瞬間から必然的に「アクティブ」であると同時に「エレガント」でもあるという「二面性」を本質として内在していたのである。

カルティエは、サントスシリーズにおいて、個々のモデルによって軸足(ウエイトを置く要素)を変えつつ、「アクティブ」と「エレガンス」を一貫して表現してきたのである。

翻ってみると、カルティエは、いま皆がイメージする腕時計という型自体がなかった100年以上前に、ともすれば相反する「アクティブ」と「エレガンス」という要素を巧みに織り込んだ腕時計を見事に作り上げた。そして、以降一貫したデザインコードで以って時代に即してそれらを表現し続けてきた。このように考えると、カルティエの凄さは改めて高く評価されるべきだ。

 

世界初のラグスポはサントスだった?

以前述べたとおり筆者が次に狙っている腕時計は「スポーツウォッチ」の「シンプル」なモノだ。

拙稿「三本目の腕時計くらい大目に見ろよ「四分類コレクション」」参照

ドレス⇔スポーツ・シンプル⇔コンプレックスで整理される四分類コレクションの中で最も使い勝手が良いコレクションがスポーツ×シンプル。

これは多くのTPOをこなせるほか、多様なファッションにもフィットしてくれる「オールラウンダー」とでも言うべきもので、是非とも一本持っておきたいと思うのである。

拙稿「スポーツウオッチ万能説?時計選びのプロが解説」参照

ところで、貴方はシンプルなスポーツウオッチと聞いて何を浮かべるだろうか。ノーチラスロイヤルオークオーヴァーシーズ

いわゆるラグスポ(ラグジュアリースポーツウオッチ)だが、これら雲上ブランドのラグスポで使いやすいSS(ステンレススチール製)の人気モデルは入手が困難だし何より相当な予算を要する。

拙稿「特集【ラグジュアリースポーツ】パテックフィリップ・ノーチラス、オーデマピゲ・ロイヤルオークほか」参照

その他のラグジュアリーブランドも、こぞってラグスポに位置づけられるモデルをリリースしており(大抵のものは雲上ラグスポに比べて手が届きやすい価格で勝負している)、その選択肢は豊富だが、正直言って独創性、オリジナリティという意味で物足りないものが多いと感じる。

もちろん中には自ブランド固有のDNAを入れ込んで仕立て上げたモデルもあるが、人気ラグスポのデザインからそれらしきエッセンスをかすめ取っただけのモデルは、一見格好良くは思えても「高いお金を払ってでも欲しい」という気持ちにはなかなか至らないのである。

いずれにせよ、現在ラグスポを中心にスポーツ×シンプルコレクションが隆盛を極めていることは疑う余地もないが、皆がこれだけラグスポに惹かれる理由は何か?

筆者が思うに、現代人のライフスタイルを彩る「アクティブ」と「エレガンス」という相反する概念が一個の腕時計で表現されている妙ではなかろうか。

そのラグスポの元祖は何かと言えば、一般的には、ジェラルドジェンタが手掛けたロイヤルオーク(オーデマ・ピゲ)であり、ロイヤルオーク風のデザインコードを持つものがラグスポだと認識されているはずだ。

拙稿「【デザイン】ジェラルド・ジェンタ

しかし、ラグスポを「アクティブ」と「エレガンス」という概念を一個の腕時計で表現しているものと定義するならば、何を隠そうサントスこそが世界初のラグスポでもあったと言って過言ではないだろう。

 

サントス ドゥ カルティエ(2018年新作)について

サントス ドゥ カルティエの性格

サントスを知らない人にサントス ドゥ カルティエを見せて「ドレスウオッチかスポーツウオッチのどちらと思うか」尋ねてみれば前者であると答えるかもしれない。

確かにカルティエ独特のローマンインデックスとレイルウェイ目盛りにブルースチール針と来れば、サントス ドゥ カルティエはさも古典的なドレスウオッチのように見える。

しかし、ベゼルとSSブレスレットには、全体的かつ控えめのようで大胆に「ビスモチーフ」が装飾されている。

これらはビスで部品が留められただけの昔の簡素な飛行機の機体を彷彿とさせるだけでなく、整然と組み上げられ上品に研磨された一つ一つのコマからはどこかエレガンスも漂ってくる。

まさに空をアクティブに躍動していた一世紀前のサントス=デュモンを見事に表現している。

そして、アクティブな動きの中でもリューズが損傷するのを防止する「リューズガード」もある。

サントス誕生のストーリーを踏まえて、このような外見的特徴を考慮すると、サントス ドゥ カルティエは、正にスポーツウオッチであるといえる。

そして、従来のサントスから大きく変わったのが、ブレスレットとの視覚的な一体性を果たしたベゼルのデザインだ。

これにより、2018年の新作サントス ドゥ カルティエは、名実ともに「現代的なラグスポ」であると言えよう。

 

サントス ドゥ カルティエのサイズ

このサントス ドゥ カルティエを選ぶ上で悩むのはサイズだ。

現行サントス ドゥ カルティエのラインナップでは三種類のサイズ(MM、ML、XL)が用意されている(このうちXLというのはクロノグラフ付きのモデルでシンプルではないのでここでは除外する。)。

  • MM 横35.1mm × 縦41.9mm
  • LM 横39.8mm x 縦47.5mm

サントス ドゥ カルティエはオーソドックスなラウンド型ではなくスクエア型である。

ゆえにサイズ感がいまいちピンと来ないが「ミディアムサイズはラウンド型の39mm、ラージサイズは42mmに換算できる」(前掲「カルティエ サントス ドゥ カルティエを1週間レビュー(動画解説付き)」(STEPHEN PULVIRENT執筆))という見方は参考になるだろう。

筆者の主観だがラウンド型の39mmというのは一般的な日本人男性の腕回りのもとでは非常に最適なサイズ感で、これが42mmにもなると結構大ぶりだと感じる。

拙稿「機械式腕時計のサイズ(直径)」参照

 

サントス ドゥ カルティエの素材

現行サントス ドゥ カルティエには、

  1. ステンレススチール
  2. ステンレススチール×ゴールド
  3. ゴールド
  4. ステンレススチール(ADLC(非晶質ダイヤモンドライクカーボン)加工)

の四種類がある。中でも人気があるのは1と2。

アクティブ要素を重視したい人には1。

エレガンス要素を重視したい人には2。

 

サントス ドゥ カルティエを試着レビュー

長々と書いてきたが、ここからようやく実機の試着レビューに入りたい。

 

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(左:LM 右:MM)

照明が眩しくてわかりにくいがご容赦を、、、

左:Santos de Cartier watch  Ref.WSSA0018 LM

右:Santos de Cartier watch  Ref.WSSA0029 MM

 

価格はMMが72万6000円(税込)、LMが79万7500円(税込)。価格差の7万1500円はサイズの違いと日付機能の有無からきている(MMはノンデイト、LMはデイト)。

いずれも比較的入手しやすい価格帯である。サントスが持つ「価値」を考えれば、ラグスポ分野のこの価格帯では無敵に近いコスパと言って差し支えない。

 

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(左:LM 右:MM)

アングルを変えてみたが余計見えなくなった、、、

 

Santos de Cartier watch LM  Ref.WSSA0018

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(LMを試着)

リストショットでようやくハッキリ映った。

まずはLMから。

筆者が日頃着けている時計は直径40mmでラグの端から端が48mm程度(ROLEXのGMTマスター2)。

それと比べると然程違和感はない。

直径42mmの時計に換算できるという見方についてはわずかに疑問もあるが、スクエア型であるのと、白ダイヤルのせいか、確かに大きめには感じる。

このサイズ感だと「腕に何か着けている」という感覚が強く出てくる。

ちなみに、筆者の腕回り(手首のコブの下あたりで測定)はだいたい17.5~18cm弱くらい。

 

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(LMを試着)

サイドからのアングル。ケースの構造や、ブレスレットの形状と質感がある程度分かるかとおもう。

無骨なようで、エレガントでもある、不思議なブレスレット。時計の専門家たちがこの美しさを絶賛するのもうなずける。

 

Santos de Cartier watch MM Ref.WSSA0029

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(MMを試着)

次はMMサイズの試着レビューをしていく。

まずはリストショット。

LMのサイズ感と比べると「すこし物足りない」気がしてくる。

しかし、LMのことを一旦忘れて、MMそのものに集中してみると、手首への収まり具合が実に良いことに気付く。

重量もほどよく、着け心地は想像以上に良い。

 

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(MMを試着) 

サイドからのアングル。

ブレスレットの横幅はLMに比べて一回り狭いが、このサイズ感でも丁度良い。

 

LMとMMの選び方

LMとMMについては「ラージサイズは最初からそのサイズありきで作られたというよりは、ミディアムサイズの膨張モデルといった印象」(前掲「カルティエ サントス ドゥ カルティエを1週間レビュー(動画解説付き)」(STEPHEN PULVIRENT執筆))という意見もあるので参考まで。

 

LMとMMはあくまでもサイズの問題なので、自分の手首のサイズにフィットするものを選べばよいとおもう。

とはいえ、どちらもフィットする場合にはかなり悩むことになるだろう。

 

LMとMMとの選択において重要となるポイントが「日付機能」の有無だ。

MMはノンデイト、LMはデイト。

一旦サントスから離れて一般論を言うと、筆者個人的には日付機能は無い方が望ましいと考えている。

というのも、

  1. 時計が止まった後に日付を合わせるのは面倒という実用面での問題
  2. 機能が増えることによる故障のリスクの増加の問題
  3. 文字盤のバランスを崩すリスク、デザイン面での問題

などが理由だ。

特に3のデザイン面で、サントス ドゥ カルティエLMはどうだろう。

Ⅵのローマンインデックスが消え、日付窓が消えたⅥのインデックスの位置にある。この工夫により、左右のSymmetryは何とか保たれているが、上下のSymmetryは損なわれている。

ⅥのローマンインデックスがあるMMの方がデザイン面での統一感が出るようにおもわれ、カルティエらしさをより堪能できるのではないか。

 

また、見逃せないのが7万1500円と言う価格差だ。70何万円の中ではそれほど大きく感じないと言え「7万円」は決して無視できない。

 

あと何か言える観点があるとすれば、MMはレディースでも使えるサイズの範疇にあるという点だろう。

パートナーに譲ったり、貸したりしてシェアすることもできる。また、MMサイズであれば、息子がおらず娘しかいないパパさんでも、娘が大きくなった時に譲ってやることだってできるだろう。

 

マイナスポイント

良いことばかり述べてきたが、最後に筆者が、LMとMMに共通するサントス ドゥ カルティエのマイナスと考えるポイントを二点指摘しておこう。

 

 鏡面仕上げのベゼル

まずは、ベゼルがピカピカの鏡面仕上げになっている点である。

これは見事で美しい反面、腕時計を使用していればいつか必ず(用心深くない人は多い頻度で)ベゼルを何かにぶつけ、鏡面仕上げのベゼルは瞬く間にキズだらけになるリスクが高いことを予め覚悟しておく必要がある。

しかしそのリスクは、ことサントス ドゥ カルティエに関しては問題ではないと考える。

というのも、おそらくサントス=デュモンが乗っていた飛行機は試行錯誤のフライトでキズだらけだったに違いなく、キズはサントス ドゥ カルティエのケースにとって自然な要素と言えよう。

立派に傷だらけになったサントス ドゥ カルティエを見てみたい人は「Cartier Santos Medium WSSA0010 Overview」(YouTube動画)を視聴されたい。ここまでいくとサントス ドゥ カルティエに秘められていた無骨さが際立ってクールだ。

 

クィックスイッチ交換可能システム

次に、ワンタッチで取り替え可能なブレスレットだ(クィックスイッチ交換可能システム)。

それは利点であってマイナスポイントではないと言う人が多いだろう。

一方で、カルティエ純正のストラップしか装着できず、市販の好みのベルト・ストラップ(往々にして純正品よりも随分リーズナブルであり、圧倒的な種類がある)を楽しめない点は、筆者個人としては非常に残念である。

 

参考ウェブサイト

サントスないしサントス ドゥ カルティエの理解をさらに深めたい人のために、参考になるウェブサイトを記事公開日順で整理しておいた。

様々な執筆者の目線からサントスに光を当ててみれば、新たな発見があるはずだ。

  1. もう一度、カルティエ”サントス・ウォッチ”誕生の物語を振り返る【時計王・松山 猛のSIHH2018】 | MEN'S EX ONLINE | 2018.2.13

  2. ユルすぎる「カルティエ」イベントで気づいた2つの価値ってナンだ? | WWD JAPAN.com 2018.4.15

  3. 【メゾン・カルティエ】〜サントスの歴史〜 | THREEC | ウブロ,オメガ,カルティエ,タグホイヤー,ブライトリングなど高級時計,ブライダルジュエリー,メガネの正規代理店です。 2018.4.16

  4. ブックディレクター幅允孝の仕事論。そこに重なるカルティエ・サントス・ヒストリー|OCEANS オーシャンズウェブ 2018.5.17

  5. 平山祐介がカルティエ・サントスに感じた、真のチャレンジ精神|OCEANS オーシャンズウェブ 2018.5.18

  6. カルティエ/サントス | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos] 2018.5.29

  7. 「世界初の男性用腕時計」カルティエのサントスはなにが画期的だったのか? | メンズウォッチ(腕時計) | LEON レオン オフィシャルWebサイト 2018.10.25

  8. 2018年新作サントス・ドゥ・カルティエ MMは全てのシーンをカバーする腕時計の傑作 | 鰯の飽くなき収集癖 2018.11.26

  9. 新世界へ躍動する カルティエ「サントス」 | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos] 2019.6.6
  10. カルティエ「サントス」、自由こそがスタイルである理由 | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos] 2019.7.3

  11. だから僕らは、カルティエの「角」に惚れている | WATCHNAVI Salon 2019.8.30

  12. ラグスポもフォーマルもこなすサントス ドゥ カルティエ MMをコレクションに追加しました! | 鰯の飽くなき収集癖 2019.9.17

  13.  “世界初の腕時計” サントス ドゥ カルティエをどこよりも詳しく徹底解説! | メンズ ブランド腕時計専門店 通販サイト ジャックロード 2019.10.11
  14. カルティエ サントスを買うなら知っておきたいこと | 腕時計総合情報メディア GINZA RASINブログ 2019.11.10
  15. カルティエ サントス ドゥ カルティエを1週間レビュー(動画解説付き) - HODINKEE Japan (ホディンキー 日本版) 2019.12.6
  16. 最新世代のサントス ドゥ カルティエで 王道ウォッチの魅力を再(初)確認!|関口 優 | oomiya公式ウェブマガジン 2019.12.7
  17. カルティエ サントスのデザインの進化 - Chrono24マガジン 2020.1.23

  18. カルティエ「サントス」100年のメタモルフォーゼ | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos] 2020.4.3
  19. 後世に語り継がれる定番時計「カルティエ サントス」――紳士用腕時計の幕開けを告げたレジェンド | WATCHNAVI Salon 2020.4.19
  20. カルティエの歴史と基礎知識。注目モデルや選び方をチェック | 高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos] 2020.4.28

  21. 2020年新作カルティエ(サントス デュモン)Cartier SANTOS-DUMONT Ref. WSSA0032 - しろくま腕時計紹介店 2020.5.8

  22. 時計ライター竹石祐三の偏愛的逸品 -Watch- | デジモノステーション 2020.5.18

 

さいごに

以上、長文になってしまったが、時計史における極めて重要なタイムピースであるサントスの真髄に迫る分析を試みた上で、サントス ドゥ カルティエの実機レビューを紹介してみた。

サントス ドゥ カルティエに対する新たなイメージが得られたなら望外の喜びだ。