腕時計をたしなんでいただくために時計の歴史に関する記事を書きます。
今回は「時計回り」についてです。
自動車の通行、日本ではエレベーターのどちらサイドに立つかなど、二択事項についてはたいてい国や地域で異なります。
しかし、時計については例外なく右回りが採用されています。
通説では、時計が右回りなのは、時計発展の歴史が影響していると解されています。
紀元前4000年頃にエジプトで日時計が誕生しました。
これが人類における「時計」の起源であるとされています。
https://museum.seiko.co.jp/knowledge/ElementalTimepieces01/
日時計は、このように地面に棒を立ててできる影の位置や長さによって、だいたいの時刻を知るという方法で、エジプトをはじめとした「北半球」の文明で発達していきます。
http://www.moonover.jp/bekkan/bigin/world_map.htm
北半球においては、日時計の影は右回りに移動します。
https://museum.seiko.co.jp/knowledge/ElementalTimepieces01/
人類初期の文明は北半球に偏在しており、したがって、時計というのは右に回るものだ、となっていきました。
仮に南半球で文明や日時計が発展していたら、時計は左回りになっていたことでしょう。
時計はたんなる素材や機械の塊ではなく、まさに人類が辿ってきた「歴史」が詰まっているものなのです。
さて話は変わりますが、去る2019年1月、WPHH 2019がジュネ―ブで開催されました。
WPHHとは、World Presentation of Haute Horlogerie(ワールド・プレゼンテーション・オブ・オート・オルロジュリー)、直訳すると高級時計の世界的プレゼンテーションです。
これはフランクミュラーのグループが主催する新作時計の発表会です。
フランク ミュラー FRANCK MULLER
トノウ カーベックス CINTRÉE CURVEX
リメンバー REMEMBER
2019年1月のWPHHで発表された新作モデルです。
発売時期は未定で、予価は285万円(税別)とのことです。
一見すると、何の変哲もないフランクミュラーのトノウカーベックスのようだし、何でそんなに高いんだと思われたかもしれませんが、これはコンプリケーションウオッチ(仕組みが複雑な時計)です。
実は、よく見ると、時字が左回りに1、2・・・となっています。
そうです。
フランクミュラーは、日時計以来の伝統であった時計回り=右回りという概念を打ち破ったのです。
針も逆に回ります(末尾の動画をご覧ください)。
フランクミュラーは、いわば時の哲学者であり、「時を楽しむため」の機械式時計づくりをしているブランドです。
ところで、フランクミュラーは、なぜこのモデルをつくったのでしょうか。
これはフランクミュラーが、「時計って右回りだよね」という常識の根底にある「日時計誕生以降の6000年の時計史」を振り返ってみようよ、「時って、時計って、面白くない?」というメッセージを投げかけているのだと思います。
@FRANCKMULLER : Remember (anti-clockwise time) •• LE TEMPS RETOURNÉ POUR SE RETROUVER
フランクミュラーの哲学がまさに具現化した、粋なウオッチではないでしょうか。
秒針が動いている動画はこちら↓で見られます。