腕時計を「嗜む」(たしなむ)とは、長く使える腕時計を、手入れしながら、使いつづけることです。
その時計のウオッチナリティー(個性・ストーリー・コンセプト等)が、自分のパーソナリティーと結びつくものであれば、手入れはたのしい時間になります。
さて、手入れは、「なぜそれをするのか」という趣旨を理解することが重要です。
今回は、ステンレススチール腕時計についての日常の手入れの紹介です。
まずは、毛先が柔らかいブラシをかけます。
柔らかい毛先のブラシでサッサッとしていきます。
コマとコマの間ですね。
ホコリ等がたまりやすいので、ブラシの毛先を入れていきます。
そして、クロスで拭いていきます。
指紋等の汚れが消えてキレイになり、気持ちよくなります。
しかし、それだけではなく、錆(サビ)=酸化を防止する効果もあります。
ステンレス stainless とは、サビにくいという意味です。
つまり、サビないわけではなく、サビ「にくい」だけです。
サビにもいろいろな種類があり、サビ=悪ではなく、良いサビと悪いサビがあります。
黒サビ(四酸化三鉄Fe₃O₄)は、金属との密着性が高く成分も安定しているので、保護膜の役割を果たします。
一方、悪いサビは、赤サビ(酸化鉄2Fe₂O₃、2FeO)です。空気中の酸素との酸化還元反応により起きます。
ステンレススチールが赤サビにくい理由は、「酸化被膜」があるからです。
ステンレスの構成物質の一つであるクロムという物質が、空気に触れることで、緻密な構造の酸化被膜がスチールの表面に形成されます。
これが金属表面と空気・液体との化学反応を妨げる保護膜になります。
なお、高級時計の中には、針を手作業で焼き入れているものもあります。
これは良いサビ(酸化被膜)を形成して、防錆性を高めているものです。
汗やホコリ等がスチールの表面に残ったままでは、酸化被膜が破壊され、赤サビが進行します。
そこで、スチールの表面をクロスで拭いて、キレイに保っておく必要があります。